ブックタイトル月刊田中けん

ページ
36/58

このページは 月刊田中けん の電子ブックに掲載されている36ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

月刊田中けん

おとし自分たちの生活が不安に貶められる可能性が高くなるからこそ、クリミアや東ウクライナでは大きなデモが自然発生的に起きた。別にロシアがデモをそそのかしたわけではない。では、どうしてロシアはクリミアに国籍不明の軍隊を入れたのか。正規軍ではなく国籍不明軍にしたのは外国に軍隊を入れることに後ろめたさがあったから。更に、正規軍がウクライナ人と対立すると、極東アジアに多数存在するウクライナ人との民族対立など、国けねん内問題の矛盾がより大きくなる懸念があった。それでもなお、もしあの時点でロシアが軍事介入していなければ、キエフの武装集団がクリミア議会と政府を占拠して、自治政府の権力を全部キエフ側が握ることになっただろう。そして住民投票などさせなかった。それが目に見えていたから、ロシアは先手を打った。今回のクリミアでの住民投票は、ロシアの軍将校が階級バッチを外して、自警団として介入し、ロシアがクリミアを実効支配する目的で行われた。これは国際法的な基準から逸脱している。よって、ロシアにクリミアを編入するという決定がなされても国際法的な効力は持たないとするG7(フランス・米国・英国・ドイツ・日本・イタリア・カナダの7ヶ国で構成された首脳会議)の主張は当然。他方、もしクリミアで、軍隊などを排除して、完全に自由な民意の反映をした住民投票をした場合であっても、確実に今回と同じ結果にはなった。クリミアの住民の大多数はロシアへの編入を望んでいる。それはクリミアにとって、過去20数年間のウクライナ支配下にあって、何も良いことがなかったから。今までのウクライナ政府は、EUとロシアを手玉にとり、より多くの支援を得て、自分たちの政権内で富を分けていた。それで腐敗汚職が起こり、政権が変わる。腐敗汚職を一掃するとして誕生した新政権も同じ事をする。それの繰り返しだった。クリミア人が恐れたのは、今回のキエフの政変で、ウクライナ至上主義者によって、公用語がロシア語からウクライナ語だけになることだった。クリミアではほとんどの人がロシア語を話している。ウクライナ語が公用語になると、公務員は全員ウクライナ語を話す人たちに取って代わられる。役所との間でやり取りする文書が全部ウクライナ語になる。民間企業であっても役所の許認可が必要な場合、ウクライナ語ができる人が会社にいないと仕事にならない。これはウクライナ語という言語を使って、エリートの入れ替えが行われることを意味している。ウクライナ国籍を持っていてもロシア語しか話せない人は、事実上職を失う。または降格される。収入が減るという意味で、2級市民になってしまう。当初、プーチンは「ロシアがウクライナの領土であるクリミアに介入することはない」と明言していた。それにも関わらず、軍事介入せざるを得なくなったのは、クリミアにいるロシア人の「助けてくれ」という支援要請を無視できなくなったから。もしここで同朋を切り捨てる決断をしていたならば、国内的にプーチン政権がもたなかった。今のロシアは国益にとって死活的に重要なことであるならば、近隣諸国の主権は一定制限されて構わないという強国主義的発想になっている。それと同時にクリミアについて、現状は変えられないと考えている。その根拠は、第1に歴史的経緯とクリミア住民がロシアの助けを求めているという現実。第2にキエフのウクライナ新政権が、クリミアの現状を変えられる軍事力を持っていない。第3にアメリカがキエフの現政権に対して軍事支援を行うとか軍事顧問を送るなどによって、クリミアの現状を変える意図がない。この3点の理由により、力によって現状を変えても誰もそれを阻止することはできないという帝国主義的発想をしている。ロシアは表向きウクライナの現政権の正当性を認めていない。しかし、外務大臣同士が会っていることから、ウクライナの現政権は事実上承認されている。ロシアのラブロフ外相は、プーチン大統領承認に基づいて行動している。ロシアとしてはキエフの政権と折り合いをつけるシグナルを送っている。そのシグナルとは、ウクライナは連邦制に回帰しろということ。東ウクライナと南ウクライナに関しては極めて高度な自治政府を作り、そこをキエフの政府が間接統治する。ウかんしょうクライナとロシアとの間に、緩衝地帯を作り出すことによって、軟着陸による問題解決を狙っている。これがうまく行くかどうかは、キエフとワシントン(=アメリカ)がどう考えるかによる。G8から排除されたことを、ロシアは侮辱だと受け止めている。(4ページへ)3